いまチャレンジするためのメディア「起業の今を知り、今動く」 ON&BOARD TIMES

事業創造

勝てる市場はどう選ぶ?市場選定における3つのポイント

起業家が事業を立ち上げる際、最も重要でありながら、同時に頭を悩ませやすい要素の1つが「どの市場で戦うか」という市場選定です。どれほど優れたチームやプロダクトがあっても、選んだ市場にポテンシャルがなければ、事業のスケールは望めません。

本記事では、市場選定において考えておきたいポイントを整理します。

目次

・市場選定の出発点

・ミクロ市場の「根深い課題」を掘り当てよう

・質の高い課題を見極めるポイント

市場選定の出発点

市場選定の出発点は大きく2つのパターンに分けられます。

・原体験がある場合
「製造業のこの不合理をどうしても解決したい」といった強い原体験(Will)を持つ起業家にとっては、事業展開する市場が明確です。しかし、情熱を持つ分野が実は誰もお金を払ってまで解決したくない課題だったり、逆に既に強力な解決策が存在するレッドオーシャンだったりすることもあります。それゆえ、具体的なターゲット設定や、収益化に至る段階で苦戦するケースは珍しくありません。

・原体験がない場合
特定の領域に縛られずにチャンスを探す起業家は、「どの市場が儲かるか」「どこに隙があるか」を探索するフェーズで迷走しがちです。テーマを決めても、数ヶ月後には「やはりこの市場は厳しい」と判断し、ピボットを繰り返してしまう。このテーマ探しのループから抜け出せないケースが多く見受けられます。

市場選定においては以下の3つの論点を整理することが不可欠です。

・Where:どこで戦うのか(市場)

・When:いつ戦うのか(タイミング)

・Why You:なぜ自分がやるのか(原体験・ミッション)

特に「Why You」は、採用候補者や投資家に対して「なぜこのチームがこの課題を解決するのか」を説得する際の強力な武器となります。

ミクロ市場の「根深い課題」を掘り当てよう

では、実際に市場選定する際にどのような点を意識すべきなのか、みていきましょう。

マクロな統計データ(市場規模など)を確認することは欠かせませんが、それ以上に、ミクロな視点で「未解決かつ根深い課題」を見つけられるかが分かれ目です。

ユーザーヒアリングでは「いいですね!」と褒められるのに、いざ有料で提案すると「今はいいです」と断られる。その際に「機能が足りないのか?」「価格が高いのか?」など、枝葉の改善に時間を溶かし、結局「そもそも市場(ニーズ)がなかった」と気づくまでに数ヶ月を要することがあります。

「便利になりそう」という程度の浅い課題(Nice to Have)ではなく、顧客がお金を払ってでも解決したい(Must Have)課題かどうかを見極める視点が欠かせません。

最初は小さく、ニッチな市場でも構いません。むしろ、浅い課題で広い市場を狙うと、既存の競合や代替手段に埋もれてしまいます。まずは「絶対にこの課題を解決してほしい」という熱狂的な顧客を確保し、スモールウィンを実現し、キャッシュフローを生むことが先決です。

サプライチェーンを例に取るなら、プレイヤー全員を並べ、それぞれの課題を書き出してみましょう。その中で最も課題が大きく、すぐにでも解決が求められている課題の順番を間違えないことが、事業の立ち上がり速度を決定づけます。

>Unsplash/Sigmund

「質」の高い課題を見極めるポイント

ミクロな課題を見つけた後、さらにその「質」を精査するために、以下のポイントを確認してみましょう。

  • Time to Value(タイム・トゥ・バリュー)

顧客がプロダクトを導入してから、価値を実感するまでの時間は、スタートアップの生存戦略と直結します。例えば、社内全員が使い始めないと価値が出ないプロダクトは、価値発揮までの時間軸が非常に長くなります。

このようなモデルでは、導入を決めるまでに数多くの決裁権者の合意が必要となり、営業サイクルが長期化するほか、現場一人ひとりのITリテラシーや慣習を塗り替える必要があり、オンボーディングのコストが膨れ上がります。価値が出る前に「使い勝手がわからない」「浸透しない」という不満が溜まり、本格運用前に契約を切られてしまうのです。

一方で、複雑な請求書処理をAIで一瞬で終わらせるツールであれば、経理担当者1人が使い始めたその日に「これまでの苦労は何だったのか」という深い感動を与えられます。この「個人単位での成功体験」こそが、すぐに組織全体へとサービスを浸透させていくことにつながります。

>Unsplash/Kelly Sikkema

  • 課題の「変曲点」を捉えるタイミング

「いつ戦うか(When)」を考える際、競合の動きや資金調達環境ばかりを見てしまいがちですが、本当に注目すべきなのは、ユーザー側が強い課題だと感じる変曲点に入っているかどうかです。課題には必ず旬があります。まだその課題を深刻だと認識していない場合は、Nice to Haveになり、お金を払う準備もできていません。

逆に、既に課題が顕在化している場合は、強力なライバルがひしめくレッドオーシャンになっています。理想的なのは、今はまだ大きな課題であることに深く気づいていないが、時間の経過とともに深刻化していく課題を先回りしてとらえることです。社会構造の変化やテクノロジーの進化により、今後どこまで課題が深くなっていくのか。この時間軸の視点が、将来的な競合優位性の鍵となります。

その際に問われるのは、顧客セグメントと課題の結びつきです。特定の顧客層が、代替手段を持たないまま長く苦しみ続けているポイントを正確に突けているかどうか。ここを外すと、市場はあっても、持続的な価値提供にはつながりません。

もっとも、市場選定において根深い課題を見つけ、製品が市場に適合する(PMF)状態に至ることは、あくまでスタートラインに過ぎません。事業が注目され、採用や資金調達が進むにつれて、それまで見過ごされてきた課題は一気に可視化されます。その結果、大手企業を含む競合が参入し、顧客獲得コストは上昇し、単価は下落する。いわゆる「レッドオーシャン化」の波が押し寄せます。

だからこそ、市場選定の段階で、課題の深さ、顧客との結びつき、そして時間軸まで含めて考え抜くことが、PMFの先にある競争環境を生き抜くための前提条件となるのです。