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事業創造

いま話題の核融合とゲノム編集スタートアップの共通点

事業創造
石塚 賀彦/Yoshihiko Ishizuka
BY Yoshihiko Ishizuka

2013年、世界のベンチャーキャピタル(VC)投資額に占めるディープテック分野の割合は19%にすぎませんでした。しかし、2022年には27%にまで上昇しており、VCがディープテック分野を投資対象として、より一層注目していることがわかります。

日本政府も『スタートアップ育成5カ年計画』において、ディープテック・スタートアップが有する革新的な技術が経済成長を実現するポテンシャルを秘めているとまで言及しています。

そんな日本のディープテック・スタートアップで有名な核融合の「京都フュージョニアリング」、ゲノム編集の「リージョナルフィッシュ」には、意外な共通点がありました。

それは、京大傘下のベンチャーキャピタル(VC)である京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)が運営する、京大の研究者と外部の経営人材をマッチングする会員制組織「ECC-iCAP」発のスタートアップだということです。

目次

    • 京都大学のサイエンスをもとにイノベーションを創出するVC
    • 研究シーズをもとにした2つの起業支援
    • 「ECC-iCAP」発のスタートアップ、リージョナルフィッシュ創業の軌跡
    • 研究者と経営人材の出会いをどのようにつくるか

京都大学のサイエンスをもとにイノベーションを創出するVC

京都フュージョニアリング」、「リージョナルフィッシュ」は共に京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)が運営する会員制組織「ECC-iCAP」発のスタートアップです。

京都iCAPは、京都大学の研究成果を活用し、次世代を担う産業の創造に投資活動を通じて貢献することを目的に、京都大学が100%出資で設立したVCです。“投資案件の発掘”のみならず、“大学の研究シーズを元にした起業支援にも注力”していることが特徴です。

優れた技術でも基礎研究段階では、事業化までには時間がかかります。

京都iCAPではファンドの運用期間を最長20年に設定することで、京都大学の研究成果が世に出るまで伴走支援できるようになっています。

研究シーズをもとにした2つの起業支援

京都iCAPでは2つの起業支援制度を提供しています。

  1. 客員起業家プログラム「EIR-iCAP
     起業志望者を契約社員として採用し、キャピタリストともに事業計画を策定しながら、2年以内の起業をサポート
  2. 起業したいビジネスパーソン向け会員組織「ECC-iCAP
     ビジネスパーソンと京都大学の研究者を結びつけるマッチングイベントを運営。その後の会社設立も支援し、最初の投資家として出資

「ECC-iCAP」発のスタートアップ、リージョナルフィッシュ創業の軌跡

リージョナルフィッシュはECC-iCAPから経営陣が参画して起業したスタートアップです。

世界人口の増加と経済発展に伴い、タンパク質の摂取を既存の畜産物に依存していると、2025年〜2030年頃には需要が供給を上回るとされています。水産物においては、気候変動により漁獲量の減少といった課題にも直面しています。

同社は水産物の品種改良をゲノム編集で超高速化して、可食部を増やしたり、成長速度を早くすることでそうした食糧課題の解決を目指しています。

2019年4月に、現CEOの梅川 忠典氏が研究者である京都大学大学院農学研究科 准教授の木下 政人氏(現:CTO)、近畿大学水産研究所の家戸 敬太郎教授(現:科学技術顧問)の共同研究成果をもとに創業しました。

梅川氏は、コンサル、VCといったキャリアを歩んだのち、昆虫食スタートアップ「エリー」を創業しました。

ところが、2017年に開催されたECC-iCAPで、木下氏によるゲノム編集のプレゼンに感銘を受け、その後の面談で意気投合。VC時代から、日本が世界No.1の技術を有する分野で起業したいと考えていた梅川氏にとって、まだまだ発展段階の昆虫食よりもゲノム編集×養殖技術の方が将来性があると感じ、共同創業に至りました。

創業から3年で累計34.4億円の資金調達を完了しており、2023年6月には、日本通信電話(NTT)と共に、合弁会社「NTTグリーン&フード」を設立するなど、水産物の量産体制の整備にも動いています。

研究者と経営人材の出会いをどのようにつくるか

大学や大手企業には世の中に出ていない技術や研究成果が数多くあります。しかしながら、優れた技術やアイデアがあっても社会実装ができるわけではありません。

リージョナルフィッシュのように、事業化されていなかった技術でも経営人材が交わることで初めて社会実装に繋がることがあります。

最近では、科学論文数が減少傾向にあるものの、日本は現在でも世界トップレベルの研究力を有する国です。

経営人材が素晴らしい研究を行う研究者と出会う機会が増えると、日本から世界を変えるようなスタートアップが生まれるかもしれません。

ON&BOARDでも起業志望者と共に事業テーマの選定段階から支援を行う創業プログラム「Out of BOUNDS」を定期的に実施しています。

以下のURLからのご連絡もお待ちしております。
https://onboardvc.com/contact_program/

 

石塚 賀彦

Yoshihiko Ishizuka

ON&BOARD Venture Capitalist

現職:大広 未来開発局インキュベーションセンター チーフディレクター
兵庫県出身。2009年博報堂DYグループ「大広」に入社し、11年間プロデューサーとして大手食品会社等、幅広い業界、サポート領域(マーケティング/ブランディング/デジタル含むメディア全般/制作など)に従事。 2020年よりビジネスインキュベーション部門のカタリストとして、VCへのLP出資等、外部とのネットワーク構築および連携PJの推進・大企業のオープンイノベーション支援に従事。 2021年にはDX部門にて、プロジェクトマネージャーとして、プロジェクト全体設計・DX関連サービスの導入・セールスDXの仕組み構築などに従事。 2023年11月よりベンチャーキャピタル「ON&BOARD」へ出向中。
大阪大学薬学部・大阪大学大学院薬学研究科卒業。

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