
スタートアップは資金調達を行なった直後から、数多くのやるべきことがあります。その中でも特に見落とされがちなのが、商標や特許といった「知的財産(IP)」に関する手続きです。
今回は、後回しにすると取り返しがつかなくなる重要ポイントに絞って、シードステージの資金調達後に確認しておきたいことを整理しました。
目次
・社名・ロゴの商標は本当に使えるのか?
・特許出願はローンチ前に済ませる
・デザイン性が重要な場合は「意匠登録」も
・社名の読みやすさ・覚えやすさにも注意
・スタートアップにとっての知財は“守りと攻めの両輪”
社名・ロゴの商標は本当に使えるのか?
まず確認すべきことは、社名やロゴの商標登録です。
実は、調達直後ではもう遅いかもしれません。すでに存在する企業の商標と重複していると同じ名前で商標登録できないなど、最悪の場合は事業名の変更を余儀なくされるケースもあります。
プロダクトをローンチして認知度が高まったタイミングで、プロダクト名を変えなくてはいけなくなると、かなりのダメージです。だからこそ、認知度が上がる前──つまりお金を使い始める前に、その名称で問題がないか確認しておくことが重要です。
実はこうした商標トラブルは、“数社に一社”ほどの頻度で発生しています。
特許庁の「J-PlatPat」や、「コトボックス」のような無料で使えるオンライン商標検索ツールなどを活用して、一次チェックをしておきましょう。
- すでに商標登録されている名前と類似していると、無効や差止請求の対象になる可能性も。商標侵害の警告を受けると、リブランディングには多大な費用と時間がかかります。
- ビジュアル要素も商標の一部:ロゴマークはデザインの一部が既存の登録商標や著作物と似ている場合でも登録が拒絶されることがあります。図形要素も含めて注意が必要です。
- 業種ごとの区分を確認:同じ名前でも業種(商標区分)が異なれば登録できるケースもありますが、スタートアップがピボットする可能性を考えると、複数区分での出願も検討すべきです。
- 海外展開を見据えた商標戦略:日本国内では登録可能でも、将来的な海外展開を見据える場合、WIPO(国際商標登録)などを通じた国際的な出願戦略も早期に考えておく必要があります。
特許出願はローンチ前に済ませる
次に注意したいのは特許出願です。こちらもタイミングが非常に重要です。
特許には「新規性」という要件があり、プロダクトを世に出してしまうと、その新規性が失われてしまう可能性があります。つまり、「公開前に出願していなければ、特許が取れなくなる」というリスクがあるのです。
- 特にテック系のスタートアップにとっては、公開前の特許出願は重要なマイルストーンです。プロダクトの開発段階から、十分に知財戦略を練っておきましょう。
- 特許出願は、ピッチイベントやクラウドファンディングでの紹介前にも完了しておく必要があります。
- 出願の準備には数週間〜数ヶ月かかるため、開発と並行して弁理士との連携を始めることが望ましいです。
- 米国などでは「先に出した者勝ち」の先願主義が徹底されているため、スピード感も重要になります。
デザイン性が重要な場合は「意匠登録」も
さらに、ハードウェアやUI/UXにこだわるスタートアップであれば、「意匠権」も見逃せません。
画面の構成や製品デザインが差別化ポイントである場合、それを保護するには意匠登録が有効です。これもプロダクト公開前に取得しておく必要があるため、知財戦略の初期段階で検討しておくとよいでしょう。
- 例えば、スマートデバイスやアプリのUIが競合と明確に異なる場合、それ自体が知的財産になり得ます。
- 意匠登録をしておけば、後発の模倣デザインに対して法的措置を取りやすくなります。
- 一部の国では部分意匠(画面の一部、製品の一部)にも対応しており、複数出願の検討も必要です。
社名の読みやすさ・覚えやすさにも注意
また、商標だけでなく、社名自体の“使い勝手”にも注意が必要です。
思いを込めて造語にしたものの、誰にも読んでもらえない、覚えてもらえない。そんなケースも少なくありません。
実際に広告を出したり、マーケティング活動を本格化させた後で、「同じ名前の企業から警告が来た」「社名が検索しづらい」などの問題が発覚するケースも多々あります。
一見ユニークな名前でも、「識別性がない」と判断されると商標登録が難しくなることもあります。社名は法的視点とマーケティングの両面でバランスをとる必要があるのです。
- 発音しやすさ、スペルの分かりやすさは検索性や口コミ効果に直結します。
- 略称やドメイン名との整合性も重要です。
- 早期に商標調査を行い、既存の登録商標との衝突リスクを回避しましょう。
スタートアップにとっての知財は“守りと攻めの両輪”
スタートアップにとって、知財は守りのためのものだけでなく、投資家や顧客に対する信頼の証でもあります。
特にベンチャーキャピタルは、知財の有無を企業評価における重要な要素と捉えています。初期から知財戦略を立てておくと、事業の成長スピードに遅れて対応に迫られることもありません。
また、知財の有無・整理状況が将来的にM&Aされる際の評価・値付けに直結することもあります。
「今はまだ大丈夫」と後回しにせず、創業初期から戦略的に準備を進めていきましょう。
ON&BOARD TIMES編集部
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