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なぜ創業初期に「起業家×市場の必然性」が問われるのか

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ON&BOARD TIMES編集部/ON&BOARD TIMES編集部
BY ON&BOARD TIMES編集部

投資家は、どの瞬間に「この起業家なら勝てる」と判断しているのでしょうか。

創業初期においては、「なぜこの人が、この市場でやるのか」という必然性が、最も重く見られます。

この必然性を捉える概念が、ファウンダー・マーケット・フィット(FMF)です。

本記事では、FMFを単なる経歴や業界経験の話としてではなく、起業家と市場の関係性をどう構造化し、どう評価しているのかという視点から整理します。投資家が見ている急所と、起業家が言語化すべきポイントを掘り下げていきます。

目次

・創業初期の最重要評価軸

・経験は両刃の剣

・B2BとB2Cで異なる、ファウンダー・マーケット・フィットの中核

創業初期の最重要評価軸

一般的に投資家による評価は、「プロダクトの受容性(PMF)」「市場規模と成長性」「継続的な競争優位性(モート)」といった複数の軸で行われます。シリーズが進み、実績が積み上がるにつれて、これらの比重は高まっていきます。

一方で、創業初期においては、これらを十分に測れる材料が揃っていないのが実情です。プロダクトは未完成で、顧客ニーズも仮説の段階にあり、将来の成長を数字で説明することはほぼできません。 こうした状況では、「誰がその市場に挑むのか」が強く問われます。

その判断軸となるのが、ファウンダー・マーケット・フィット(FMF)です。FMFは、「この起業家が、この市場で事業を前に進められるか」を見極めるための視点です。プロダクトや売上が揃わない中でも、「この人がやるなら進む」と思わせられるかどうかが、創業初期の投資判断を左右します。

>Unsplash/Marvin Meyer

経験は両刃の剣

ファウンダー・マーケット・フィットを語る際に陥りやすいのが、「業界経験が深いほど有利」という単純な見方です。実際には、経験の価値は一律ではなく、どの市場で戦うかによって大きく変わります。

例えば、商習慣が複雑で業界固有のKPIや多様な利害関係者が存在するB2B市場では、過去の経験がそのまま競争優位になります。内在化されたドメイン知識や既存のネットワークは、営業組織の立ち上げやGo-to-Market戦略の設計、初期の顧客獲得に直結します。「内側を知っていること」自体が、参入障壁になる市場です。

一方で、まだ市場が定義されていない新領域や、既存の常識が強く根付いた伝統産業を破壊するような文脈では、経験が必ずしも武器になるとは限りません。むしろ、過去の成功体験や業界の「当たり前」に縛られないことが、新しい価値設計や突破力につながります。この場合に求められるのは、アンラーニング、つまり一度身につけた前提を捨て、ゼロベースで学び直す能力です。

>Unsplash/Tyler Franta

重要なのは、創業者自身が、自分のキャリアで発揮してきた強みが、これから戦う市場の特性と噛み合っているかを正確に認識できているかどうかです。この自己認識の解像度こそが、ファウンダー・マーケット・フィットの成否を分けます。

B2BとB2Cで異なる、ファウンダー・マーケット・フィットの中核

ファウンダー・マーケット・フィット(FMF)は、市場の特性によって求められる中核的な能力が変わります。B2BとB2Cでは、創業者に期待される強みが根本的に異なります。

B2B市場の課題は、業務フローや法規制、業界固有の調達慣行といった構造の中に深く埋め込まれています。そのため、その領域で「顧客は何に対して、どのタイミングでお金を払うのか」を理解していることが重要になります。

こうしたドメイン知識に加え、意思決定者へ直接アクセスできる既存のネットワークは、営業活動や初期の収益化を大きく前に進めます。B2BにおけるFMFの中核は、「内側を知っていること」にあります。

一方でB2C市場では、創業者自身やその周辺が、初期のターゲットユーザーになり得ます。ここでは、特定業界での長年の経験が、そのまま優位性につながるとは限りません。むしろ重要なのは、仮説を立て、ユーザーにぶつけ、学習し、改善するサイクルをどれだけ速く回せるかです。市場の変化をいち早く捉え、プロダクトに反映させる俊敏性こそが、B2CにおけるFMFの中核になります。

同じFMFという言葉でも、B2Bでは「深さ」が、B2Cでは「速度」が問われます。自分がどちらの市場で戦おうとしているのかを明確にしたうえで、その市場が求める能力と自分の強みが噛み合っているかを見極めることが重要です。