創業期のCxO採用で、最後まで悩みがちなのが報酬設計です。
十分なキャッシュを用意できない中で、生株やストックオプションをどう使うかは、単なる条件の話ではありません。誰に何を渡すのかという判断は、経営チームの関係性や会社の将来に直結します。
本記事では、創業期にCxOを迎える際に避けて通れない報酬設計の論点を、生株、ストックオプション、創業者間契約という具体例から整理します。
目次
・創業期CxOの報酬設計における全体像
・生株を付与するという選択肢
・ストックオプションは「いつ渡すか」が重要
・創業者間契約で退職時にも備えておく
創業期CxOの報酬設計における全体像
創業期のCxO報酬設計では、まず全体像を整理することが重要です。どのCxOポジションに、どのような役割と責任を担ってもらうのかが決まって初めて、報酬の話が具体化します。特に創業期は、十分なキャッシュを用意できないケースも多く、給与だけでなくエクイティを組み合わせた設計が前提になります。
給与はキャッシュで支払うこともできますが、創業〜アーリーステージでは前職と同等の水準を提示できないことも少なくありません。そのため、生株やストックオプションといったエクイティを報酬の一部として用いる選択肢が現実的になります。エクイティは、会社の成長と個人のリターンが連動するため、経営人材に中長期でコミットしてもらうための重要な手段です。
エクイティには大きく分けて、生株を譲渡する方法と、ストックオプションを付与する方法の二つがあります。どちらを選ぶか、あるいは組み合わせるかは、CxOの役割や期待するコミットメントの度合いによって異なります。
生株を付与するという選択肢
生株を付与する場合、CxOは社員であると同時に株主になります。ラウンドによっては、ベンチャーキャピタルなどの投資家と同じ種類の株式を保有することもあり、取締役会の承認事項や株主総会に関わる実務にも関与する立場になります。
また、株式を多くの個人に分散して配ることは、会社運営上の負担を増やします。株主総会の委任状回収や意思決定プロセスの複雑化を考えると、生株を付与する対象は慎重に選ぶ必要があります。そのため、生株はCxOの中でも限られた人にのみ付与される、レアな選択肢だと考えるのが現実的です。
ストックオプションは「いつ渡すか」が重要
ストックオプション(SO)を付与する場合に最も重要なのがタイミングです。SOは株式を購入する権利であり、発行価額や行使価額は、その時点の株価に連動します。創業期は株価が低いため、条件としては有利になりやすい一方、資金調達後に発行すると行使価額も上がります。

>Unsplash/Arturo Añez
CxOにとってのリターンは、実際の株価と行使価額の差で決まるため、できるだけ資金調達ラウンドの前に付与したいと考えるのが自然です。ただし、CxO候補に業務委託やメンバーとして関わってもらい、カルチャーフィットを見極めたうえで正式に就任してもらう場合、資金調達のタイミングとの調整が必要になります。多くのスタートアップが、このバランスに頭を悩ませています。
また、税制適格・不適格といった制度面は近年変更も多いため、SOを設計する際には必ず最新の情報を確認するようにしましょう。
創業者間契約で退職時にも備えておく
生株を付与する場合、あわせて検討しておきたいのが創業者間契約です。これは、生株を保有する経営メンバーが退職した場合に、その株式をどのように扱うのかを、あらかじめ取り決めておくための契約です。
一般的な事業会社では、経営陣が短期間で辞めたり、途中でエグジットしたりすることは多くありません。一方で、スタートアップはチャレンジ性や不確実性が高く、フェーズごとに経営陣の役割が変化します。その結果、経営メンバーであってもいつ退職を決断しても不思議ではありません。
退職したメンバーが生株を持ち続けている場合、外部投資家からは、経営への関与と持株構成の不整合が将来の意思決定や報酬設計に影響しないか、という点が懸念されます。こうした状況は、資金調達やガバナンスの面で大きなデメリットになり得ます。

>Unsplash/Towfiqu barbhuiya
契約内容は一律ではありません。持株比率や、退職時点で担っている役割、過去に果たしてきた役割など、複数の要素を踏まえて設計します。株式の買取についても、すべてを買い取るケースから、一定期間在籍することで権利が確定するベスティングを採用するケースまで、さまざまな選択肢があります。買取価格についても、出資時の簿価とするのか、直近の株価とするのかを含め、あらかじめ話し合って決めておくことが重要です。
また、経営人材が競合企業に移籍したり、競合事業を立ち上げたりするリスクを考慮し、業種によっては競業避止義務を契約に盛り込むことも検討すべきでしょう。
創業者間契約は、創業経営陣が揃ったタイミングで、できるだけ早く締結しておくのがポイントです。株式を付与し、事業が進んだ後であっても、体調不良などの理由で業務執行が難しくなり、退職を余儀なくされることは十分に考えられます。
スタートアップのCxOは責任が重く、ステージが進むにつれて求められる役割も変化します。その中で、自分が十分に価値を出せていないと感じ、身を引く判断をすることもあります。その際に、株式の扱いを巡って対立が生じてしまうと、これまで築いてきた信頼関係を損ねかねません。
信頼できる仲間だからこそ、退職後の株式の扱いまで含めて最初に話し合っておくことが、結果として経営チームが事業に集中できる環境をつくることにつながります。
ON&BOARD TIMES編集部
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