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シード調達直後に潜む落とし穴を回避するためのチェックリスト

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ON&BOARD TIMES編集部/ON&BOARD TIMES編集部
BY ON&BOARD TIMES編集部

シード期のスタートアップにとって、資金調達の成功はゴールではなく、スタートラインに立ったことを意味します。調達直後の起業家は、プロダクトのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)に向けた開発、優秀な人材の獲得、そして初期顧客の開拓と、息つく暇もないほど多くのタスクに追われます。

しかし、こうした攻めの業務に没頭する中で、多くの起業家が後回しにし、後に手痛い失敗となる分野があります。それが「知財(知的財産)」の管理です。

本記事では、シード調達直後に必ず確認しておくべき知財関連のチェックリストを整理していきます。

目次

・なぜ「知財」は後回しにできないのか

・そのブランド名は本当に問題がないのか

・特許は“公開前”で勝負が決まる

・なぜ「知財」は後回しにできないのか

・ソフトウェア・スタートアップにおける重要な資産

・スタートアップが活用すべき知財の実務ツール

なぜ「知財」は後回しにできないのか

一般的に、スタートアップの評価軸は事業の成長スピードにあります。限られた資金が尽きる前に市場で確固たる地位を築くことは、単なる評価のみならず生存そのものに関わるため、プロダクト開発や顧客獲得といった「攻め」を最優先にせざるを得ません。

こうした生存競争の渦中にあっては、知財管理など「守り」の施策は、事業が軌道に乗ってから考えればいいと考えがちかもしれません。しかし、資金調達をしてプロダクトを公開し、認知度を上げようとするフェーズこそが、最も知財リスクが高まるタイミングです。

無名だった創業期には見向きもされなかったとしても、広告宣伝費を投下してサービスが注目を集め始めた途端、先行する商標権や特許権を持つ権利者にとって無視できない存在となります。もし、本格的な事業拡大を狙うタイミングで商標侵害の指摘を受け、サービス名の変更を余儀なくされたらどうなるでしょうか。それまでに積み上げたブランド認知、SEO効果、マーケティング投資のすべてが水の泡となります。

そのブランド名は本当に問題がないのか

商標に関する確認は、「調達直後でも少し遅いかもしれない」と考えられるほど、緊急度の高いものです。特に以下の2点は、経営陣自らが泥臭く動かなければならないポイントです。

・認知拡大の前に「法的リスク」を解消する

創業間もない会社は、まだ社会的なインパクトが小さいため、既存の商標を侵害していても直接指摘を受けることは稀です。しかし、調達した資金を使ってSNS広告を回したり、プレスリリースを打ったりして露出が増えると、状況は一変します。

>Unsplash/Kevin Gonzalez

類似の社名やサービス名を持つ会社から、ある日突然商標権侵害の警告書が届くことがあります。これは決して珍しい話ではなく、数十社に1社程度の割合で発生している問題だと言われています。このとき、もし相手方に正当な権利があれば、どれだけ思い入れのある名称であっても、法的に使用を差し止められる可能性があります。

・「識別性」と「説明コスト」のバランス

商標に関連して重要なのは、名称の性質です。AmazonやAppleのように、本来の業務とは無関係な一般名詞をブランド名にする場合、それ自体には「識別性」がないため、初期段階では商標登録のハードルが高くなります。一方で、独自の言葉を作る造語の場合、商標は取りやすいものの、顧客に対して「それが何のサービスか」を説明するコストがかかります。スタートアップがこのジレンマの中で、どちらを選ぶのか。この意思決定は、その後のマーケティング戦略に大きく影響を与えます。

特許は“公開前”で勝負が決まる

商標以上に「タイミング」がすべてを決めるのが特許です。特許には「新規性」が必要です。原則として、出願前に公の場(Webサイト、展示会、プレスリリース、SNSなど)で技術内容を公開してしまうと、新規性が失われ、 特許取得は大きなハードルになります。日本には一定期間の救済制度もありますが、期限管理や海外展開を考えると、実務上は「公開前の出願」が基本と考えるべきです。

たとえ完成版でなくても、アイディアや基本的なアルゴリズムが固まった段階で、仮出願を含めた法的保護のステップを踏む必要があります。特に技術的優位性を参入障壁とする企業にとっては、特許戦略は生命線になります。

ソフトウェア・スタートアップにおける重要な資産

ソフトウェア・スタートアップにおいては、UI/UXの優位性は重要な資産です。そのうち、画面デザインや表示態様といった「視覚的表現」を保護するのが意匠権です。

近年の法改正により、画面上のアイコンやグラフィカルユーザインタフェース(GUI)といった画像デザインも、意匠権の保護対象として認められる範囲が広がっています。非常に使い勝手が良く、磨き込まれたUIの「具体的な表示デザイン」は、競合他社にとって最も模倣したいポイントです。

>Unsplash/Tirza van Dijk

「この画面構成や表示デザインこそがユーザー体験の核心だ」という自負があるならば、それを意匠として早期に登録しておくべきでしょう。意匠も特許と同様に新規性が求められるため、公開後では原則として登録は難しくなります。

スタートアップが活用すべき知財の実務ツール

知財管理は専門性が高く、弁理士に依頼するのがベストですが、シード期の限られた資金の中で最初からすべてをアウトソーシングするのは難しい場合もあります。そこで、起業家自身が以下のようなツールを活用して、まずは1次チェックを行うことがよいでしょう。

J-PlatPat:特許庁が提供する特許情報プラットフォームです。商標や特許の登録状況を無料で検索できます。まずは自社に関連する名称で検索してみることがよいでしょう。

Cotobox:AI技術と提携弁理士を活用し、商標検索から出願、管理までをオンラインで完結させることができます。商標登録を専門家に依頼したいが費用と時間を抑えたい場合や、自分で検索するのが不安な場合に適したサービスです。

こうしたツールを使い、まずは自社の状況を客観的に把握することが、知財戦略の第一歩となるでしょう。知財を軽視することは、ブレーキの効かない車で公道を走るようなものです。スピードを追求するスタートアップほど、知財という「守り」を整えることが、結果的に最大の「攻め」を支える基盤になります。