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はじめての弁護士選び──スタートアップのための法務パートナーガイド

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ON&BOARD TIMES編集部/ON&BOARD TIMES編集部
BY ON&BOARD TIMES編集部

スタートアップにとって、弁護士選びは事業の成否を左右する重要な意思決定です。

法律リスクへの対応は後手に回ると取り返しがつかないことになる可能性もあり、迅速な事業拡大とサービスへの信頼性には大きな影響を与えます。

そこで本記事では、スタートアップの事業領域に応じた弁護士選びと法務体制づくりを紹介します。

目次

・自社は「規制領域」か?──まず最初に確認すべきこと

・企業内弁護士はいつ採用すべきか

・理想的な法務体制を構築しよう

・相談コストを惜しまないマインドセットを

自社は「規制領域」か?──まず最初に確認すべきこと

弁護士選定において、自社が規制領域で事業展開しているのかどうかで大きく状況は変わります。

・規制産業の場合
例えば、FinTech、自動運転関連、医療サービスなどを展開するのであれば、早期にその分野で著名な弁護士を特定し、味方にすることが鉄則です。

規制産業では法律の解釈が難しく、弁護士の意見書(法的な見解やリスクについて文書で示したもの)が、事業開始の前提条件となったり、投資・提携の可否を左右したりする場面が少なくありません。

>Unsplash/Thomas Lefebvre

このとき重要なのは、「どの弁護士が書いた意見書か」という点です。各業界で「あの弁護士が書いていないなら不安」といった評価が当たり前のように交わされています。特に、厚生労働省や金融庁といった規制当局への出向経験があり、行政側の“肌感”を持ち合わせた弁護士は極めて心強い存在です。

アプローチの方法はいたってシンプルです。

弁護士事務所に直接連絡して、自社の事業背景や相談内容を率直に伝えるとよいでしょう。紹介がなければ失礼にあたるということはありません。スタートアップであってもいかに本気で取り組もうとしているのか、誠実に向き合うと応じてくれる弁護士は数多くいます。

非規制産業の場合
一般的なWebサービスや、クリエイティブ領域などでは、企業法務を横断的に10年程度経験したジェネラル弁護士を顧問弁護士として迎えるのが良いでしょう。

そして、事業フェーズや状況に応じて、顧問弁護士のネットワークから各分野のプロを紹介してもらうようなアプローチをとると良いでしょう。

企業内弁護士はいつ採用すべきか

当初は月30〜50万円で顧問弁護士にサポートをしてもらっていても、年収800〜1,200万円ほどで、弁護士を1名採用したほうが合理的になるタイミングもくるでしょう。

顧問弁護士は第三者性が担保され、意見書を発行してもらえることなどはメリットですが、相談から回答までの時間がかかりやすいというデメリットもあります。一方で、企業内弁護士がいると、社内のSlackやMTGで細かいことまでいつでも相談することができます。

>Unsplash/Scott Graham

規制産業ではシリーズA〜Bのタイミングで、インハウス化できるとベストです。それ以外のスタートアップは、案件数や内容を考慮しながら、迅速な事業拡大をするためにどうするのがよいのかを考えていきましょう。

ストックオプション(SO)の活用は“要検討”

2021年の改正で、外部専門人材へのストックオプション付与は可能になりましたが、大きく2つの論点があります。

・発行手続きが煩雑(発行決議・通知・確定時課税など)
・弁護士の倫理上「アップサイド報酬」を受けない先生も多い

月額の固定報酬制をベースに、資金調達やM&Aといった重要案件ごとに追加のフィーを支払う形式が、実務上はもっとも現実的で無難です。

理想的な法務体制を構築しよう

事業フェーズが進むにつれ、“T字型リーガル体制”を構築していくことが理想です。

・横棒(ー):ジェネラル型の企業内弁護士
ーー広範な法領域を浅く早く拾い、リスクの芽を潰す役割
ーー大きな事象にも対応できるよう、各分野で外部専門家を束ねている

・縦棒(|):領域特化の外部専門家
ーー労働法・独禁法・医薬品規制など、案件ごとにピンポイントでサポートを依頼
ーー規制当局出身者や審議会の委員経験者だと説得力が跳ね上がる


この体制の構築を事業フェーズに合わせて進めていき、上場準備フェーズでは内部統制・開示まで網羅できるチームへ進化させていきましょう。

相談コストを惜しまないマインドセットを

法律リスクへの初期対応は安く済みますが、後手に回ると取り返しがつかず、結果的に高くつくことが少なくありません。

弁護士への相談は短期的な事業成長に直結するものではないかもしれませんが、中長期的に事業の継続性や信頼の基盤を支える重要な投資と言えるでしょう。

規制産業でなくてもジェネラリストの顧問弁護士に加え、専門分野の弁護士とのネットワークを早めに整備することで、プロダクト開発のスピードを落とさずに済み、投資家からのデュー・デリジェンスにおいても安心材料となります。

予算が限られる創業期こそ、1時間単位のスポット相談や電話での簡易相談などを積極的に活用し、「わからないことを放置しない文化」を組織に根付かせることが、後々の大きなトラブル回避につながります。