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単一勝負から複合戦略へ──変貌するスタートアップの戦い方

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ON&BOARD TIMES編集部/ON&BOARD TIMES編集部
BY ON&BOARD TIMES編集部

近年、日本のスタートアップシーンでは、数十億円、時には百億円を超える規模を超える規模の「大型調達」も珍しくなくなってきました。この変化は、単に調達額が大きくなっただけでなく、スタートアップの成長戦略そのものが大きな転換点を迎えていることを示唆しています。

今回は、大型調達のトレンドから見えてくる、これからのスタートアップの戦い方を探ります。

目次

・変化する資金の使い道
・新潮流①:単一プロダクトから複数プロダクトへ
・新潮流②:競争から協調へ
・ロールアップ戦略の光と影:金利上昇がもたらすリスク

変化する資金の使い道

かつての大型調達における資金の使い道は、テレビCMをはじめとする大規模な広告宣伝費でした。調達後に一気に知名度を上げて、事業拡大して上場を目指すパターンが主流でした。

しかし現在では、その様相は大きく変わりつつあります。特にディープテック分野の台頭により、長期的な研究開発(R&D)に資金を投じる企業が増加。また、物理的な設備投資を必要とするビジネスモデルも増えており、スタートアップの資金使途は多様化しています。これは、短期的なユーザー獲得競争から、事業投資を行いながら競争優位性を築こうとする戦略にシフトしていることの表れと言えるでしょう。

新潮流①:単一プロダクトから複数プロダクトへ

これまでのスタートアップの定石は、単一のプロダクトで市場を「一点突破」することでした。しかし、海外を中心に「コンパウンド・スタートアップ」という新たなモデルが注目されています。これは、創業初期から複数のプロダクトを同時に開発・提供し、顧客の課題を包括的に解決しようとするアプローチです。

Unsplash/Zan Lazarevic

このコンパウンド戦略は、実は日本市場と非常に相性が良いと考えられます。

  1. 「プロダクト」から「ソリューション」へ:海外市場と比べ、日本では単一機能のツールだけでは大きな価値を感じてもらいにくい傾向があります。複数のプロダクトを組み合わせ、顧客の課題全体を解決する「ソリューション」として提供することで、顧客単価を初期から引き上げることが可能になります。
  2. 縮小市場での必然的な選択:人口減少が進む日本では、獲得できる顧客数に限りがあります。そのため、1社あたりのLTV(顧客生涯価値)を最大化することが不可欠であり、その手段としてコンパウンド戦略は極めて有効です。

この戦略を成功させるには、特定の顧客が抱える課題を深く理解し、その解決に必要な機能を一気通貫で提供する、あるいはバリューチェーンの前後を含めて事業領域と捉え、複数のプロダクトでその土台を築く、といった視点が求められます。

新潮流②:競争から協調へ

有望な市場には、必ず複数の競合が出現します。これまでは、各社が広告費を投下し、消耗戦ともいえるユーザー獲得競争を繰り広げてきました。フリマアプリやクラウド会計ソフトの市場がその典型です。

しかし、どこかのタイミングで、市場全体の採算性が合わなくなる瞬間が訪れます。そこで新たな選択肢として存在感を増しているのが、競合や関連事業を買収・統合する「ロールアップ」戦略です。

Unsplash/Jakub Żerdzicki

広告費を使い続けるよりも、M&Aによって市場を統合し、非効率な競争をなくす方が、結果的により顧客価値の高いサービスを提供でき、企業価値向上にもつながるという判断です。

国内市場が縮小していく中で、1つの業界に多数のプレイヤーが存在し続けることは困難です。今後は、テクノロジーを武器に業界再編を主導できるスタートアップが、各領域のリーダーとなっていくでしょう。

ロールアップ戦略の光と影:金利上昇がもたらすリスク

一方で、このロールアップ戦略は「低金利」という環境に支えられている側面も持ち合わせています。

買収資金の多くは、エクイティファイナンス(株式による資金調達)だけでなく、デットファイナンス(融資)によって賄われることが少なくありません。しかし、今後金利が上昇する局面では、借入コストが増大し、ロールアップ戦略そのものが立ち行かなくなるリスクを孕んでいます。

したがって、ロールアップ戦略においては、以下の点が重要となります。

  1. 強力なエクイティストーリー:金利の動向に左右されず、いつでも大型のエクイティファイナンスを実行できるような、大きな成長を描けるビジョンと、そのストーリーを投資家に納得させられる経営者の存在。
  2. M&A後のシナジーの解像度:買収・統合後に、管理コストをどれだけ削減できるのか、本当に顧客単価を引き上げられるのか、といったPMI(統合プロセス)の解像度。

デットファイナンスを主軸に考えつつも、常にエクイティでの調達が可能な状態を維持し、M&Aの再現性を高めておくこと。それが、金利上昇時代におけるロールアップ成功の鍵です。

スタートアップの戦い方は、もはや単一のプロダクトで戦うのではなく、複数の事業や戦略を駆使する「総合格闘技」へと変化しています。この大きな変化を捉え、自社の戦略をどう描くかが、今後の成長を大きく左右することは間違いないでしょう。