グローバルへの挑戦:インドネシア市場の魅力とは?
海外市場での成功には、現地のマクロ経済動向や政治、ビジネス文化への深い理解が重要です。
今回は人口規模・地政学上、東南アジアの中心的存在であるインドネシアを取り上げ、日本の起業家・スタートアップにとって成功の鍵となる情報をお届けします。
目次
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- 東南アジアの雄、インドネシア
- 実は多いインドネシア発ユニコーン企業
- 押さえておくべき政治・ビジネスの特徴
- 今も中間所得層の購買力不足が課題
東南アジアの雄、インドネシア
インドネシアは国民の約87%がイスラム教を信仰しているイスラム教国家です。約4割を占めるジャワ族をはじめ、約300の多民族が約17,000の島々に居住しています。人口は約2.7億人と、東南アジア最大の人口を有しています。
労働人口は現在の約1.4億人からさらなる増加が見込まれていますが、平均年齢は約30歳と非常に若いことが特徴です(2020年の国勢調査で日本は47.6歳)。この人口ボーナス期も活かし、政府は「Golden Indonesia 2045」を掲げ、2045年までに経済規模で世界第5位の先進国を目指す野心的な目標を設定しています。
また、政府は渋滞・災害対策の一環として、首都を現在のジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)のヌサンタラに移転する計画を進めており、一層の注目を集めています(2024年から段階的に進め、2045年に完了する計画)。
特筆すべき点は、日本に対して非常に友好的な国であることです。自動車市場では日本車が約9割のシェアを占めるなど、様々な産業において多くの日系企業が進出しており、全般的に日本ブランドに対する信頼は高いと言えます。
そんな中、2024年2月の大統領選挙の結果、10月にプラヴォ新政権が誕生しました。基本的にはジョコ前政権の路線を踏襲しつつ、インフラ拡充やデジタル産業育成等を通じてより野心的な経済成長を目指しているため、日本の企業・スタートアップにとって、引き続き魅了的な市場であることに変わりはありません。
実は多いインドネシア発ユニコーン企業
それでは、同国ではどのようなスタートアップが成長を遂げているのでしょうか。
2023年のインドネシアGDPは約1.37兆ドル(世界第16位)、一人当たりの名目GDPは約4,940ドル(同113位)です。中間所得者層の拡大は途上段階であり、15歳以上の約半分は銀行口座を保有していない新興国です。
それゆえ、スタートアップは既存のインフラ・サービスを飛び越える「リープフロッグ」戦略を採用して、新たな消費者向けサービスを提供することで、大きな成長を遂げました。
例えば、インドネシア発のスーパーアプリ「Gojek(ゴジェック)」は、ライドシェアから食品配達、デジタル決済、金融サービスまで幅広いサービスを提供することで、銀行口座を持たない消費者も様々なサービスにアクセスできるようにしました。
「Bukalapak(ブカラパック)」や「Tokopedia(トコぺディア)」は、サービスリリース時からデジタルマーケティング・SNSを活用することを軸に事業拡大をしてきました。Bukalapakは2021年に上場(上場時時価総額109兆ルピア/当時約8,320億円)、GojekとTokopediaは2021年に合併し「GoTo」となり、2022年に上場(同452兆ルピア/当時約3.9兆円)。両社ともに巨額のユニコーン企業に成長しました。
インドネシアのEC市場はコロナ禍を契機に急拡大しましたが、2024年〜2029年にかけても年平均成長率10%の継続成長をすると予測されているなど、スタートアップがEC市場を切り開き、拡大に大きく貢献していると言えるでしょう。この他にも、ECの物流事業を祖業にインドネシア最大の物流企業となったJ&T Express(23年香港で上場)、セコイアが出資し、食料・飲料分野で東南アジア初のユニコーンとなったKopi Kenangan(未上場)など、実は多くのユニコーンスタートアップが存在しています。
押さえておくべき政治・ビジネスの特徴
政治・ビジネス面ではどのような特徴があるのでしょうか。
政界や行政では、プリブミと呼ばれる先住民系インドネシア人が主要ポストを占め、政策決定や公共プロジェクトの推進において大きな影響力を持っています。
一方、ビジネス面で影響力を持つのが、数百年にわたりインドネシアに根付いてきた華僑(中国系インドネシア人)です。彼らは人口構成比で4%程度に過ぎませんが、SalimグループやLippoグループなど多くの財閥を形成し、様々な産業でビジネスを主導しています。
このように政治面でプリブミが主導し、経済面では華僑が活躍するという棲み分けにより物事が進んでいく点を理解した上で、現地ネットワークや経営体制を構築していく必要があります。
筆者も総合商社時代にインドネシアで4年ほど日系メーカーの自動車卸売事業を推進していましたが、付き合いのあるディーラーグループの殆どは華僑が主要経営を担っており、彼らのビジネスの進め方の上手さや、強固なネットワークを実感しました。
また、インドネシアには「Bersatu kita teguh, bercerai kita runtuh(団結すれば強く、分裂すれば倒れる)」という言葉があり、個人よりも集団の結束や調和を重んじる価値観が深く根付いています。
政府がトップダウンによる施策を示しても、ステークホルダーからの陳情・調整の結果、この方針が修正・変更されることも少なくないため、ビジネスの遂行においても様々なステークホルダーとの連携・協力体制を築くことが非常に重要です。
今も中間所得層の購買力不足が課題
これまで触れてきたようにインドネシア市場は非常にポテンシャルがありますが、同国のスタートアップの株価は、上場後に下落する傾向が続いている点を見逃してはなりません。米国のVCであるLightspeed Capitalが最近発表したレポートでも、GoTo、Bukapalak、Blibliといったインドネシアのユニコーン企業は、いずれも上場後の株価が低調である点が指摘されています。
この一因は、依然として中間所得層の購買力が不足していることもあるようです。特に消費者向け事業では、売上拡大には大規模な都市部と購買力を持つ活気ある中間層の存在が重要ですが、インドネシアのトップ1%の月収は5,739ドルであるのに対し、90%は253ドルに留まります。地域別にみても首都であるジャカルタ、第二の都市スラバヤとそれ以外の収入格差が非常に大きい状況です。
首都圏とそれ以外の地域の格差が非常に大きいのは、他の東南アジアの新興国でも見られる現象です。インドネシアをはじめ東南アジアの新興国に対してサービスを展開する場合、どの所得帯に訴求するサービスであるかを踏まえて、SAM(事業が獲得しうる最大市場規模)を算出してから、事業計画を策定することは重要な点と言えるでしょう。
いくつかの留意点はあるものの、スタートアップの成長に伴い、エンジニアの人材数も東南アジアでトップクラスとなっており、開発拠点や人材確保の観点からも魅力的な市場とも言えます。
ON&BOARDは、海外へ果敢に挑戦するスタートアップを積極的に支援していくベンチャーキャピタルです。インドネシア市場を含め、海外展開に関する事業アイデアや相談は遠慮なく、ご連絡ください。
東京都出身。2009年三菱商事に入社。防衛・自動車関連のトレーディング業務、在インドネシア自動車販社における商品企画・販売のOperation主導、本社投資委員会における多数の投資・事業再生・撤退案件の稟議、自動車事業本部の戦略立案等、幅広い業務に従事。
商社での業務を通じて日本の産業競争力の変化を目の当たりする中、「日本発のイノベーション創出により直接的に関わりたい」との思いから、ON&BOARD創業に参画。
一橋大学法学部卒(在学中、英国Warwick大学Politics & International Studies留学)。