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日本政府が進める「グローバルスタートアップキャンパス構想」とは

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長谷川俊介/Shunsuke Hasegawa
BY Shunsuke Hasegawa

今回は、日本政府が「スタートアップ育成5か年計画」において、グローバルに挑戦するスタートアップを輩出すべく、検討・推進している「グローバルスタートアップキャンパス構想」について取り上げます。

大学発のスタートアップが続々とユニコーン企業、上場企業へと成長する事例が生まれていることで、注目を集めていますが、さらなる輩出・育成においては日本特有のある課題を抱えています。

「グローバルスタートアップキャンパス構想」は、そんな課題を解決すると共に、実現すると世界からも注目を集めるような野心的な構想になっているのです。

目次

  • スタートアップ育成5か年計画におけるグローバル化
  • 日本の大学発スタートアップ創出に向けた課題
  • 日本でディープテック・スタートアップを生み出す新施策

「スタートアップ育成5か年計画」におけるグローバル化

2022年11月、日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」において、「2027年までにスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大」、「ユニコーン企業(時価総額1,000億円超のスタートアップ)を100社以上・スタートアップを10万社創出」など、野心的な目標を発表しました。

その目標を達成するため、2023年6月には「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023」において、3つの基本方針を柱とすることが明らかになりました。

①スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

②スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

③オープンイノベーションの推進

この3つの柱の具体的な施策としては、「日本のスタートアップエコシステムの更なるグローバル化」も織り込まれています。

Unsplash / Nejc Soklič

すでに、起業を志す若手人材をシリコンバレーに派遣する「J-StarXプログラム」など、政府が海外のスタートアップ・エコシステムとの関与を増やす取り組みを推進することはご存知の方も多いでしょう。

一方、日本の大学・研究機関の人材・研究シーズのグローバル展開を目指す「グローバルスタートアップキャンパス(GSC)構想については、まだあまり知られていないのではないでしょうか。

先ずはこの構想の背景にある、日本の大学発スタートアップ創出に向けた課題について見ていきたいと思います。

日本の大学発スタートアップ創出に向けた課題

日本の大学発スタートアップの数・資金調達額は近年増加傾向にあり、慶應義塾大学発のSpiberや京都大学発の京都フュージョニアリングなど、ディープテック分野のスタートアップも存在感を増してきています。

一方、米国と比較すると、日本の大学の研究者や、ポスドグ(期限付きの研究者)がスタートアップを創業する事例はそれほど多くはありません。大学の研究者がスタートアップを創業するための体制(知財・ビジネス知見の支援等)が十分に整っておらず、研究において将来的な事業化を見据えるのが難しい環境になっているからです。

これは日本の大学の知財に関する投資効率からも理解することができます。

大学が取得する特許1件に対する研究費は、日米で概ね同水準ですが、日本の大学の特許1件当たりのライセンス収入(特許権の実施を第三者に許諾し、権利収入を得ること)は、米国の大学と比較して僅か30分の1に留まっています。

米国では、研究開発に基づく特許のライセンス化→高成長スタートアップの創出→ライセンス・エクイティ収入の増加→更なる研究開発への還元、という好循環が生まれていますが、日本は特許を取得してからのサイクルがうまく機能していないのです。

このサイクルを変えるには、技術的専門性を有するCEO・CxO等の人材育成や、研究成果を基にしたスタートアップのインキュベーションを行う仕組みを整えることが求められています。

日本でディープテック・スタートアップを生み出す新施策

この状況を打破し、世界を席巻する国内発のディープテック・スタートアップを生み出すべく、日本政府は「グローバルスタートアップキャンパス(GSC)構想」を打ち出しました。

海外トップ大学・研究機関・VC等とも連携して、国際共同研究が実施できる拠点を東京都心(目黒・渋谷区)に設けることで、世界中から人材が集まり、日本から世界に挑戦するスタートアップの輩出を目指しています。

4月にはコンセプトページも公開され、具体的に取り組む研究分野として「バイオテクノロジー」、「クライメットテック」、「AI・ロボティクス」が挙げられています。

また、研究者に対してチームビルディング、マーケティング、ファイナンス、特許申請など、世界を舞台に活躍する起業家育成に向けた教育プログラムを」とする方針も、注目に値するでしょう。

米国では、ダブルメジャー(複数の異なる専攻分野を同時に主専攻として学ぶこと)が一般的で、研究者がCEOとなることは珍しくありません。しかし、日本では文系・理系に専攻が分かれていることで、理系人材がビジネス、経営を学ぶ機会が少ないのが現状です。

ディープテック・スタートアップ創出に向けては、研究開発環境に加えて、サイエンスとビジネスをつなげる仕組みが重要です。

アジアのハブとなるイノベーションエコシステムを構築するという、かなり野心的なグローバル・スタートアップ・キャンパス構想が上手くいくと、日本のスタートアップエコシステムを大きく変える可能性を秘めています。

2023年12月から2024年4月までに、4度の有識者会議が行われており、今後の進展には注目していきたいと思います。

内閣官房:グローバル・スタートアップ・キャンパス構想ページ:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/campus/index.html

長谷川俊介

Shunsuke Hasegawa

ON&BOARD株式会社 Partner

東京都出身。2009年三菱商事に入社。防衛・自動車関連のトレーディング業務、在インドネシア自動車販社における商品企画・販売のOperation主導、本社投資委員会における多数の投資・事業再生・撤退案件の稟議、自動車事業本部の戦略立案等、幅広い業務に従事。

商社での業務を通じて日本の産業競争力の変化を目の当たりする中、「日本発のイノベーション創出により直接的に関わりたい」との思いから、ON&BOARD創業に参画。
一橋大学法学部卒(在学中、英国Warwick大学Politics & International Studies留学)。

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