いまチャレンジするためのメディア「起業の今を知り、今動く」 ON&BOARD TIMES

事業創造

起業家と社内起業家の『いいとこ取り』EIR起業とは

事業創造
石塚 賀彦/Yoshihiko Ishizuka
BY Yoshihiko Ishizuka

今、世界各地で優れたスタートアップを創出するため、とある制度を活用する事例が増加しています。

例えば、新型コロナワクチンの「モデルナ」、時価総額約7.5兆円のSaaS企業「Snowflake(スノーフレーク)、ユニリーバが買収したカミソリブランド「Dollar Shave Club(ダラーシェイブクラブ)」など、日本でも有名なスタートアップ企業にはある共通点があります。

それらはいずれもEIR(Entrepreneur in Residence/客員起業家)と呼ばれる、起業家(Entrepreneur)と社内起業家(Intrapreneur)の「いいとこ取り」ができる制度を活用して、設立されているということです。

日本ではまだまだ馴染みがない制度ですが、これから起業を目指す方々にとって、有益な選択肢の1つとなり得るのではないでしょうか。

目次

  • EIRとは
  • なぜ今、EIRが注目を集めているのか
  • 起業家やこれから起業を目指す人にとって、EIRは何が良い?

EIRとは

「EIR=Entrepreneur in Residence(住み込みの起業家)」という直訳の通り、起業家がVC(ベンチャーキャピタル)や事業会社、大学に一定期間所属して、その中で新規事業(スタートアップ企業)の立ち上げを行う仕組みのことです。

スタートアップ創出の新たな手法として、海外のVCを中心に活用が進んでおり、日本でもジャフコグループやデライト・ベンチャーズ、三菱地所、東大IPCなど徐々に活用事例が増えています。

なぜ今、EIRが注目を集めているのか

今、大学発ベンチャーがどんどん増えてます。

政府が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げたことを追い風に、大学発ベンチャーの設立を後押しする動きが加速しています。

 

研究室には人工知能(AI)や量子など、大きな社会課題を解決し得る革新的な技術が数多く眠っています。

しかし、これまでなかなか社会実装がされてこなかったように、新技術を事業化するには技術に対する知見だけではなく、ビジネス面での経験も求められます。

EIR制度を用いるとそういった課題も解決できることから、経営人材を豊富に抱えるビズリーチが慶應義塾大学東京工業大学東京理科大学などとEIR制度の構築に向けて連携を結んでいます。

起業家やこれから起業を目指す人にとって、EIRは何が良い?

起業にあたり、EIR制度を活用することで、実際にどういったメリットが得られるのか、みていきましょう。

ON&BOARD TIMES編集部作成

  1. 適度なリターンと自由度がある → 起業家のいいところ!
    • 起業家ほどではありませんが、EXIT時には成功に応じたリターンが得られたり、既存事業による制約や条件、評価制度などに縛られずに起業を進めることができます。もちろん、所属先次第で制約や条件など一定の縛りはあるので、注意が必要です。
  2. 所属先のリソースを活用できる → 社内起業家のいいところ!
    • 創業前からベンチャーキャピタリストに事業設計の相談ができたり、オフィスやソフトウェア、研究設備など様々なリソースを活用できます。活用できるリソースも所属先により異なるので、こちらも注意が必要です。
  3. 人的ネットワークを獲得できる → 社内起業家のいいところ!
    • VC主催の起業支援プログラムの場合では、キャピタリストに気軽に相談出来たり、デモデイなどを通じて複数の投資家と接点を持つ機会が提供されたり、同期のEIR同士で切磋琢磨することから、深い繋がりが出来たりします。
  4. 新しいアイデアや技術に触れられる → 社内起業家のいいところ!
    • 所属先の研究機関などを通じて、最先端のアイデアや技術など業界のトレンドに常に触れることができます。事業会社の研究機関や大学であれば技術の宝庫、VCであれば最先端の事業アイデアに触れる機会が増えます。
  5. 給料・生活のリスクなどを軽減できる → 社内起業家のいいところ!
    • 初期は現所属先の時間外で対応し、検証が進んだタイミングで有期雇用、資金調達に進むケースもあれば、最初から契約社員として雇用され、VCでの業務を行いながら、自分自身の起業と独立を目指すというパターンもあります。

最後にON&BOARDの創業支援プログラム「Out of BOUNDS」についてのご紹介です。

当社はスタートアップスタジオ機能を持つVCとして、毎年数回、創業プログラム「Out of BOUNDS」を運営しており、EIRを募集しています。

「どのようなテーマで創業すべきか」、「自分が考えている事業テーマが適切か」、「既に起業しているが、ピボットするテーマを探したい」といった悩みを持つ、起業家候補や起業家が事業テーマを検証する場所としてはぴったりです。

プログラムに参加するメリットは3点です。

①有望な事業テーマに出会えて、専門家と事業をブラッシュアップできる
②本業を続けながら、検証を進める起業リスクを最小限にする仕組み
③創業資金調達、創業メンバー探し、グローバル展開への支援がある

既に一度エグジットを経験した連続起業家も当社の創業支援プログラムに参加し、検証を進められています。

詳しくはこちらを参照ください。

石塚 賀彦

Yoshihiko Ishizuka

ON&BOARD Venture Capitalist

現職:大広 未来開発局インキュベーションセンター チーフディレクター
兵庫県出身。2009年博報堂DYグループ「大広」に入社し、11年間プロデューサーとして大手食品会社等、幅広い業界、サポート領域(マーケティング/ブランディング/デジタル含むメディア全般/制作など)に従事。 2020年よりビジネスインキュベーション部門のカタリストとして、VCへのLP出資等、外部とのネットワーク構築および連携PJの推進・大企業のオープンイノベーション支援に従事。 2021年にはDX部門にて、プロジェクトマネージャーとして、プロジェクト全体設計・DX関連サービスの導入・セールスDXの仕組み構築などに従事。 2023年11月よりベンチャーキャピタル「ON&BOARD」へ出向中。
大阪大学薬学部・大阪大学大学院薬学研究科卒業。

石塚 賀彦の記事一覧へ