いまチャレンジするためのメディア「起業の今を知り、今動く」 ON&BOARD TIMES

Born & Go Global

ユニコーン創出への秘策:日本の政府系ファンドが海外トップVCに出資した狙い

Born & Go Global
長谷川俊介/Shunsuke Hasegawa
BY Shunsuke Hasegawa

技術革新や新しいビジネスモデルを追求するスタートアップにとって、資金調達は生命線です。誰からどの程度の資金調達をするかが、企業の成長速度や競争力に大きく影響を与えるためです。

従来、日本のスタートアップは国内のベンチャーキャピタル(VC)や協業を見据えて事業会社から資金調達をすることが一般的でした。しかし、ここ数年で海外投資家を呼び込む事例が出始めるなど、状況は変わりつつあります。

このトレンドをさらに加速させるべく、政府系ファンドのJIC(産業革新投資機構)が、世界でもトップレベルの海外VCにLP出資をし始めているのです。今回はそんな取り組みの具体事例と共に、出資の背景について解説します。

目次

  • JICが海外VCにLP出資する狙い
  • 世界最大級の老舗VC
  • 欧州のトップVC
  • 東南アジアを中心とするグローバルVC

JICが海外VCにLP出資する狙い

JICは2018年に「オープンイノベーションを通じた産業競争力の強化と民間投資の拡大」という政策目標の下で設立された、政府系の投資会社です。政府系ファンドだからこそ、リスクマネーが不足している分野に積極的に資金供給することで、日本全体のリスクマネーの好循環創出を目指しています。

JICウェブサイトより

JICとしてはJICベンチャー・グロース・インベストメンツで3つのファンド・総額3600億円規模を運用していますが、民間ファンドへのLP出資も行っています。
※LP(リミテッド・パートナー)出資:ファンドへの出資を通じて、ファンドの運用成果から利益を狙うこと

それは国内VCだけではありません。海外VCにもLP出資することで、海外からのリスクマネー流入や知見の共有など、連携を強化することで日本からグローバルユニコーンの創出につなげることを目指しているのです。

国内VCに比べると件数は多くはありませんが、実は世界でもトップレベルとして知られるVCに出資しているのです。

代表的な3社を紹介していきましょう。

・世界最大級の老舗VC「New Enterprise Associates (ニュー・エンタープライズ・アソシエイツ(通称:NEA) 」

NEAは、1977年に米国で設立されたVCで運用資産は250億ドル超えと、世界最大級のVCです。JICは2023年1月、このNEAが運営する「NEA18」と「NEA18VGE」ファンドに対して、それぞれ5000万ドルのLP出資を決定しました。

NEAは長年、テクノロジー・ヘルスケア領域に注力しており、アーリーステージからグロースステージまで一貫した支援を行うことで、Salesforce(セールスフォース)やRobinhood(ロビンフッド)など、100社近くのユニコーンを輩出してきました。

NEAウェブサイトより

現在、米国の未上場スタートアップの中で3番目に時価総額が大きいDatabricks(24年7月時点で時価総額432億ドル)に対して、シリーズB/Cの段階からリード投資をして主要株主となっているため、IPOでどれほどのパフォーマンスを挙げるのか、注目が集まっています。

現時点では、NEAは東京に拠点を有しておらず、幹部が来日した際に案件を発掘していく方針です。このNEAが日本でも出資をすると、さらに海外から日本のスタートアップ・エコシステムが注目されるきっかけとなるでしょう。

・欧州のトップVC、Atomico(アトミコ)

Atomicoは2006年にSkypeの創業者であるNiklas Zennström(ニコラス・ゼンストローム)が英ロンドンで設立した欧州のVCで、運用総額は45億ドルに上ります。

エストニア拠点のSkypeをマイクロソフトが買収したことで、エストニアがIT国家にまで成長することにつながりました。

Atomicoはゼンストローム氏のネットワークなどをもとに欧州全域でシード期からIPOまで投資をして実績を上げてきたことで、現在では欧州トップVCの1社として知られています。

Atomicoウェブサイトより

JICは2024年2月に、Atomicoが運営する「Atomico Venture VI」および「Atomico Growth VI」ファンドに対してそれぞれ2000万ドル、3000万ドルのLP出資を決定しました。

Atomicoは過去にもスマートニュース、オンライン翻訳サービスのGengo(2019年に米大手企業が買収)、リクルートが買収したオンライン学習サービスのQuipper(本社は英ロンドン)など、日系企業への投資実績があります。JICの出資により、Atomicoの日本での投資活動が活発化することが期待されます。

・東南アジアを代表するVertex Holdings(バーテックス・ホールディングス)

Vertex Holdingsは、シンガポール政府系投資会社であるTemasek傘下のVC。運用総額は60億ドルを超える、東南アジアで代表的なVCです。日本をはじめとする世界各地に拠点を構え、さまざまなステージ、事業領域で出資しています。

Vertexウェブサイトより

JICは2023年4月、Vertex Holdingsの東南アジア・インド投資向けのファンド「VVSEA」に対して300万USドルのLP出資を決定しました。

これを受けてか、Vertexは2024年5月に100億円の日本ファンド(VVJ)の設立を発表し、東京大学や東大IPCと協力の上、日本とシンガポールのスタートアップエコシステムの連携を図る方針を掲げています。

VVSEAファンドと国内VC・スタートアップの連携や、VVJファンドによる投資が拡大すれば、日本・東南アジアのスタートアップが相互に事業拡大をする上での橋渡しとなるかもしれません。

ーーーーー

今回は、JICの海外VC3社に対する出資事例を紹介しました。

ON&BOARDとしても、グローバルで競争力を持つユニコーンを日本から輩出するには、国際水準のリスクマネーの供給が不可欠と考えています。

ON&BOARDはこのような海外VCとも連携しつつ、海外市場にも挑戦していくスタートアップに対して積極的に出資・支援していきますので、Go Globalを志す起業家の方は、是非気軽に声をかけて頂ければと思います。

 

長谷川俊介

Shunsuke Hasegawa

ON&BOARD株式会社 Partner

東京都出身。2009年三菱商事に入社。防衛・自動車関連のトレーディング業務、在インドネシア自動車販社における商品企画・販売のOperation主導、本社投資委員会における多数の投資・事業再生・撤退案件の稟議、自動車事業本部の戦略立案等、幅広い業務に従事。

商社での業務を通じて日本の産業競争力の変化を目の当たりする中、「日本発のイノベーション創出により直接的に関わりたい」との思いから、ON&BOARD創業に参画。
一橋大学法学部卒(在学中、英国Warwick大学Politics & International Studies留学)。

長谷川俊介の記事一覧へ