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事業創造

創業者が一度もCEOに就任していない時価総額6.6兆円の企業とは?

事業創造
石塚 賀彦/Yoshihiko Ishizuka
BY Yoshihiko Ishizuka

創業から現在に至るまで、創業者が一度もCEOになっていない時価総額約6.6兆円(6/10終値時点)の企業があります。

それは、世界三大投資家の1人であるウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが、IPO時に約2億5000万ドルを投じたことでも有名なSnowflake(スノーフレーク)」です。

Snowflakeの事例から、持続的な高成長を遂げるためには、創業者や内部から経営陣を抜擢するだけが選択肢でないことが学べるでしょう。

目次

  • そもそもSnowflakeとは?
  • フェーズにより最適な人材をCEOに抜擢
  • Snowflakeの事例から学べること

そもそもSnowflakeとは?

Snowflakeは2012年米カリフォルニア州で、オラクル出身でデータベース分野の専門家、ブノワ・ダゲヴィル氏とティエリー・クルアネス氏、分析データベース事業を展開するVectorwiseの共同創業者、マルチン・ズコフスキ氏により設立されたスタートアップです。

2012年当時、“Data is the new oil(データは新しい石油である)”というフレーズがメディアを賑わせましたが、Snowflakeが立ち上げたサービスはまさしくその時流に乗ったものでした。

サイロ(分断)化されたデータを一元管理し、誰もがデータにアクセスして、意思決定ができるようにする、データ分析基盤「データウェアハウス」SaaSを提供しています。

フェーズにより最適な人材をCEOに抜擢

Snowflakeはブノワ・ダゲヴィル氏と、ベンチャーキャピタル「Sutter Hill Ventures(サター・ヒル・ベンチャーズ、SHV)」のMike Speiser(マイク・スパイザー)氏が議論をする過程で誕生しました。

創業者たちは顧客の課題を解決するアイデアを持っていたものの、会社を設立して事業拡大を目指す考えはありませんでした。そこで、Mike Speiser(マイク・スパイザー)氏が、出資を行うと共に、初代CEOとして会社設立・資金調達・オペレーション・組織構築に取り組みました。

それにより、創業者3人は顧客と向き合いながら、プロダクト開発に集中することができたのです。

2年間はステルス(秘密裏の)状態でプロダクト開発を行い、2014年にクラウドデータウェアハウスサービス「The Snowflake Elastic Warehouse」をリリースしました。

同年6月、SHVは、マイクロソフトでサーバーやビジネスツールを管轄する部門の責任者を務めていたBob Muglia(ボブ・マグリア)氏を2代目CEOに招きました。同氏はサービスを大々的にPRする役割を担い、CEO就任からわずか4ヵ月で80社の顧客獲得に貢献し、事業をグロースさせることに成功しました。

2019年に入り、Snowflakeは新たな段階を迎えました。そう、IPOです。

再び、SHVは米有数のSaaS上場企業Service NowをIPOに導いたFrank Slootman(フランク・スルートマン)氏を外部から迎え、3代目のCEOに抜擢しました。

Snowflakeは2020年9月に米NASDAQ市場に上場。終値ベースの時価総額は約7.3兆円に達し、米国のB2Bソフトウェア企業として史上最大規模のIPOを実現しました。

そして直近、2024年2月には、これからはAIの時代と見立て、2023年5月に買収したAIスタートアップ、Neevaの共同創業者兼CEOのSridhar Ramaswamy(スリダール・ラマスワニ)氏が4代目CEOに就任しました。

ラマスワニ氏はSnowflake傘下に入ってから、全社のAI戦略をリードしており、人工知能/機械学習(AI/ML)向けのフルマネージドサービス「Snowflake Cortex」の立ち上げなどを行っていました。

ON&BOARD編集部作成

Snowflakeの事例から学べること

事業ステージに応じた外部からのCEO招聘が爆発的な成長に

創業者はエンジニア出身で、起業には関心がなく、経営者としての経験もありませんでした。

だからこそ、創業フェーズを得意とするベンチャーキャピタリストがCEOに就任することで、創業者がプロダクト責任者・CTOとして、顧客に向き合いながら、プロダクト開発に専念することができました。

その後も株主のベンチャーキャピタル(VC)が、CEO(最高経営責任者)に最もふさわしい人材を、外部から招いています。

その結果、Amazon、Google、Microsoftなどのビッグテックが提供する競合プロダクトにも負けず、異次元の事業成長を実現することができました。

このようにVCと共同創業して成功確率を高める事例は、徐々に注目を集めており、現在ではEIR(Entrepreneur in Residence/客員起業家)制度として仕組み化が進んでいます。参考:起業家と社内起業家の『いいとこ取り』EIR起業とは

このようにVCを上手く活用して、足りない知見やリソースを補う起業メソッドは、1つの良い選択肢になるのではないでしょうか。

ON&BOARDでも日本からこうした成功事例を創出すべく、創業プログラム「Out of BOUNDS」を運営しています。

ON&BOARDの創業プログラム「Out of BOUNDS」についてのご紹介

当社はスタートアップスタジオ機能を持つVCとして、毎年数回、創業支援プログラム「Out of Bounds」を運営しており、EIRを募集しています。「どのようなテーマで創業すべきか」「自分が考えている事業テーマが適切か」「既に起業しているが、ピボットするテーマを探したい」といった悩みを持つ、起業家候補や起業家が事業テーマを検証する場所としてはぴったりです。

プログラムに参加するメリットは3点です。
メリット①:有望な事業テーマに出会えて、専門家と事業をブラッシュアップできる
メリット②:本業を続けながら、検証を進める起業リスクを最小限にする仕組み
メリット③:創業資金調達、創業メンバー探し、グローバル展開への支援もある

既に一度エグジットを経験した連続起業家が当社の創業支援プログラムに参加し、検証を進められています。詳しくはこちらを参照ください。

石塚 賀彦

Yoshihiko Ishizuka

ON&BOARD Venture Capitalist

現職:大広 未来開発局インキュベーションセンター チーフディレクター
兵庫県出身。2009年博報堂DYグループ「大広」に入社し、11年間プロデューサーとして大手食品会社等、幅広い業界、サポート領域(マーケティング/ブランディング/デジタル含むメディア全般/制作など)に従事。 2020年よりビジネスインキュベーション部門のカタリストとして、VCへのLP出資等、外部とのネットワーク構築および連携PJの推進・大企業のオープンイノベーション支援に従事。 2021年にはDX部門にて、プロジェクトマネージャーとして、プロジェクト全体設計・DX関連サービスの導入・セールスDXの仕組み構築などに従事。 2023年11月よりベンチャーキャピタル「ON&BOARD」へ出向中。
大阪大学薬学部・大阪大学大学院薬学研究科卒業。

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