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リード投資家の支援を最大限引き出すコミュニケーションの取り方

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中山 航介/Kosuke Nakayama
BY Kosuke Nakayama

スタートアップにおいてリード投資家は非常に重要な役割を果たします。

単なる資金提供者にとどまらず、中長期的な戦略のアドバイスや、経営メンバーの育成支援など、多岐にわたる協力をしてもらえる可能性があります。

本記事ではそのリード投資家の支援を最大限引き出すためにどのようにコミュニケーションをとるべきなのか、具体的な方法を解説します。

目次

  • そもそもリード投資家とは
  • 重要なのは短期と中長期のバランス
  • 経営陣の目線を揃えることも重要
  • 会社の未来を担ってもらいたい人には経営者の視点を磨いてもらおう

そもそもリード投資家とは

リード投資家とは、資金調達ラウンドにおいて最大金額を出資した、もしくは契約条件のとりまとめ等をリードした投資家のことです。主に独立系ベンチャーキャピタル(VC)が担うケースが多いです。

リード投資家の果たす役割は非常に大きく、次ラウンド以降の資金調達を実施する際に後続の投資家を呼び込む推薦人としての位置付けを担っています。

リード投資家にも大きく以下のようなスタンスの違いがあります。

・ハンズオン型:経営に深く関与する
・ハンズオフ型:基本的に経営には関与しない
・ハンズイフ型:経営陣が求めるときには深く関与する

投資家は自身の投資スタイルをホームページやSNSで発信していることが多いので、自社の状況や理想とするスタイルに合わせて、適切なリード投資家を選ぶようにしましょう。

重要なのは短期と中長期のバランス

シード・ステージの会社がリード投資家(株主)にVCを迎えたとすると、月に1回、隔週、もしくは毎週30分〜1時間ほどミーティングの場を設けるでしょう。

ミーティングでは事業の近況や困っていることなど、短期的な情報共有と同時に、中長期の経営戦略についても議論していかなければならず、この2つのバランスを取っていくことが重要です。

短期的な話題ばかりになってしまうと、5〜10年後の会社の姿と現状のギャップの把握と、それを埋めるために何をすべきかという議論に結び付きにくくなります。

また、リード投資家も次回ラウンドの潜在投資家であることから、中長期的な成長可能性を示すことが大切ですね。

©︎Unsplash/Headway

中長期の戦略・ビジョンにおいては、数ヵ月に1度の頻度でアップデートをし続けることが重要です。

例えば、SaaS事業の展開をメインにしていたけれど、お客さんの話を聞いてみると、その先のプロフェッショナルサービス(コンサルティングなど)でさらに大きなチャンスがあることに気付かされたり、ChatGPTを活用すると営業効率が大幅に上がり始めるということもあるかもしれません。

日々のPDCAサイクルを回すことで見えてきたインサイトを中長期のビジョンに反映し、エクイティストーリー(投資家に向けて自社の強みや成長戦略を説明するストーリー)に盛り込む、という作業をすると、最適なチーム作り、経営資源の配分が必然的に見えてきます。

中長期のビジョン・アップデートや深刻な課題についてのディスカッションは、毎月1時間では話しきれないこともあると思いますので、数ヵ月に1度、丸一日を使って、経営合宿をするのも良いアイデアかもしれません。

また、思いがけない困難に直面することがあります。その時、リード投資家には不都合なことは言わない方が良いのではないかと思うこともあるでしょう。もちろん全てを共有する必要はありませんが、問題を解決するために必要な範囲での情報は即座に提供することをおすすめします。

経営陣の目線を揃えることも重要

リード投資家など、外部の関係者を交えての合宿や中長期議論におけるもう1つの役割は、経営陣(CxO)の目線を合わせることです。

CEOやCFOは投資家との関わりで外部の情報に触れる機会は多いのですが、同じくらい重要な役割を担っているCOO、CTOの方と情報ギャップが生まれがちです。

経営陣の目線が揃わない限りは中長期のビジョンを描くことは難しく、それぞれの業務で忙しいCxO達が共通の情報基盤を持っていないことがあります。

外部の関係者が時間を確保して、市場環境や競合の動きを考慮した上で、自社の立ち位置はどんな状況なのか、全員が集まって、ホワイトボードなどで整理をすることは非常に役立ちます。

©︎Unsplash/Kvalifik

アーリーステージやミドルステージの段階では、テックリードがCTOの肩書きを担っていることも多いです。CTOは投資家とのコミュニケーションに慣れていない事もあるため、開発リソースが限られているタイミングでは中長期的な会議の優先度が下がりがちです。

しかし、中長期のビジョンを実現するにはプロダクト作りをする人たちの存在が不可欠なので、外部との会議にも巻き込むことが重要です。

スタートアップの本質的な優位性は、比較的簡単に新しいプロダクトを創造できるということです。これはプロダクトロードマップやアーキテクチャが固まっている大手企業には難しいことです。

この強みを生かすために、既存のお客さんの利用状況のデータなどを最大限活用し、中長期でどのようなプロダクトを提供するのか、どのようなデータを取るべきなのかを考え、アーキテクチャ・アルゴリズムを設計していく必要があります。

これを意識しないまま部分最適で進んでいくと、どこかのタイミングでプロダクトを根底から作り直さなければならない、ということになりかねません。開発現場の現状を経営陣が理解し、そのビジョンを日々の戦略に落とし込んでいくため、中長期の会議体にはCTOを含めたCxO全員が参加するべきでしょう。

©︎Unsplash/Fotis Fotopoulos

会社の未来を担ってもらいたい人には早期に経営の視点を

また、CxOでなくても今後そのポジションに就任する見込みがある人には、あらかじめ株主定例にも参加してもらい、株主とのコミュニケーションに慣れてもらうのも1つのアイディアです。

株主と経営陣の率直な議論の場は、経営能力・経営体力のある人でないと受け止めきれないこともあるので、誰がどのタイミングで参加するのかはよく吟味する必要があります。

株主定例をCOOやCFOがリードして、高いリターンを求める投資家の厳しい意見を浴びることで、経営者として大きく成長する機会にもつながるかもしれません。

成長ポテンシャルを感じる人、会社の未来を担ってもらいたい人には積極的に投資家とのミーティングに参加してもらい、経営者としてのスキルを磨いてもらうのも良いのではないでしょうか。

中山 航介

Kosuke Nakayama

ON&BOARD General Partner

埼玉県出身。2016年ドリームインキュベータに入社し、日本・インドでのスタートアップ出資・支援、大企業向けコンサルティングに従事。2019年にベンチャーキャピタル「DIMENSION」の立ち上げに参画し、これまでに投資先5社がエグジット。2022年に大手ITプラットフォーム企業に入社し、主要サービスのエコノミクス算出、中計策定、グループ企業統合に従事したのち、ベンチャーキャピタル「ON&BOARD」を共同創業。

上智大学経済学部卒業。

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