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スタートアップ経営における株主定例の活用術

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下平 将人/Masato Shimodaira
BY Masato Shimodaira

スタートアップにとって、株主(ベンチャーキャピタル等)との定例ミーティングは、事業成長に向けた重要な機会です。ON&BOARDとしても株主定例=定期的なコミュニケーション・対話の場として大切にしています。

多くの企業が月に1回の頻度で、株主定例の場を設けていますが、有効活用をするポイントは何でしょうか。

本稿では、理想的な時間配分や、対話の進め方など、スタートアップが株主からの理解と協力を得るための実践的なテクニックをご紹介します。

本記事は、ON&BOARD TIMESが配信する動画の要旨をまとめたものとなりますので、ぜひ動画もご覧ください。

目次

  • 株主定例の目的
  • 1時間の株主定例、おすすめの時間配分
  • 株主定例と取締役会の在り方

株主定例の目的

株主定例の目的は、大きく2つに分けられます。

まずは、「事業の進捗と課題、その解決策・仮説についての議論をすること」です。

一口に株主と言っても、スタートアップにはベンチャーキャピタル、エンジェル投資家、経営者まで、幅広い属性の株主が存在します。

経営チームとは異なる視点から様々な事業を見ているため、PDCAサイクルのなかでも、「P=Planning」について仮説を一緒にブレストしたり、月1回の定例の実施「C=Check」を行う場としてちょうどよい場となるでしょう。

もう1つは、「協力の依頼」です。

PDCAの「Do」の部分として、株主のネットワークを活用して、営業のサポートや専門家、資金調達先の紹介を依頼することもできるでしょう。

創業間もないシード・ステージであれば、株主はベンチャーキャピタル1、2社ですが、資金調達ラウンドが進んでいくと、株主が増えていきます。

様々なバックグラウンド、専門性、ネットワークを持つ株主それぞれから最適な「Do」を引き出すことは、起業家としての腕の見せ所です。株主も起業家から具体的な依頼を受けたがっているはずですので、積極的に力を借りていきましょう。

Unsplash/charlesdeluvio

1時間の株主定例、おすすめの時間配分

ケースバイケースではありますが、1時間の株主定例を開催する場合の例をあげましょう。

目安として、大まかに3分割して時間配分を考えると良いでしょう。

・事前準備

前提として、基本的な会社の予算に対する実績等に関する資料は、ミーティングが始まる前に共有して、参加者が事前に目を通しておくことが理想です。あらかじめどのような事項、KPIについて株主定例の場で共有すべきか合意したうえで、Notion等で株主とスタートアップとの共有のワークスペースがあるとお互いに効率的でしょう。

・最初の20分

ランウェイ(資金不足に陥るまでの残存期間)や、バーンレート(1ヵ月でどれだけ資金を使っているか)など財務的なことも含め、事業の進捗状況、予算と実績のズレの説明に使います。既存の株主も次ラウンドでの投資家となる可能性もあることから、今後の資金調達のためにも情報の透明化を通して信頼関係を築いていくことが重要です。

・次の20分

現状の課題に対して解決する手法やアプローチがあればそれを提示した上で、参加者にアドバイスを求めましょう。

また、具体的にどのような協力をしてほしいのか、コミットメントを引き出せるよう、はっきりと伝える必要があります。前月に協力を求めたことの状況確認や、ネクストアクションを定めることも行っておきましょう。

・残り20分

潜在的なリスクや競合の動きを考え、3年〜5年後以降にどのような経営戦略をとっていくのかなど、中長期的な話をしていきます。短時間では話しきれないことも多いので、今後の参考にするため、様々な視点からの意見を吸収する場としましょう。

より深く中長期の課題について話す場合には、四半期に一回ほどの頻度で、丸一日かけて経営合宿を行うことがおすすめです。PDCAの振り返り、今後3ヶ月の戦略の確認、1年後を見据えて達成すべきマイルストーンの設定、組織図など、大きなスケールの計画を含めた議論を通して、長期的なスパンの方向性を定めることができます。

Unsplash/Slidebean

それぞれのステージにおいて、参加者に何を知っておいてもらい、何を一緒に話し合っていくのかは異なります。株主定例、経営合宿、個別でのミーティングなどをうまく組み合わせながら、適切なコミュニケーションの場を設計するのが理想です。

ラウンドが進み株主の数が増えてきた場合には、議論が活性化しない株主定例となってしまうことが往々にしてあります。積極的な議論を行うことを目的とする場合、出席者を持株比率等で絞り、後日動画を全員に共有するなど、参加者の選定の工夫をすることもあってもよいかもしれません。

株主定例と取締役会の在り方

上場を見据えたタイミングでは、取締役会を設置する必要があります。

取締役会=「経営上の重要な事項について議論と意思決定を行う場」、株主定例=「IRであり広く株主に情報共有し力を借りる場」と、その目的は大きく異なりますが、説明する内容が重複することは往々にしてあります。

そこで、取締役の許可を得たうえで、株主に取締役会のオブザーバーとして参加してもらうことも考えられます(投資契約上、取締役会に対するオブザーブ権を有する株主は当該権利に基づく参加となり、取締役を選任権を持つ株主は、取締役を派遣することがあります)。

基本的には同じような議論が行われるため、株主定例は取締役会に移行していきますが、目的が違えば併存していても良いでしょう。

なお、事業のフェーズや持株比率によっては、リード投資家が社外取締役を派遣するケースがあります。

この場合、当該派遣される取締役となる担当者との相性はかなり重要です。経営方針もさることながら、人間性の面でも毎月気軽に話ができるような関係性を築くことができるのか、といった視点を持って投資家選びをすることが大切です。

下平 将人

Masato Shimodaira

General Partner

長野県出身。弁護士として法律事務所で勤務後、LINE株式会社(現:LINEヤフー株式会社)にて社内弁護士やAI領域の新規事業開発に従事。2017年に株式会社ドリームインキュベータの投資部門に参画。 同社でベンチャーキャピタル「DIMENSION」を立ち上げ、スタートアップへの出資、支援に従事。出資先9社がエグジット。過去出資先:AnyMindGroup、五常アンドカンパニー、サスメド、ハッカズーク、LegalOnTechnologies等。その後、ベンチャーキャピタル「ON&BOARD」を創業。

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